交通事故とPTSD


昨日の北海道新聞に、共同通信の配信らしい以下の記事が出ていました。

 

重傷者の3割 精神疾患に 交通事故1ヶ月後 厚労省調査

交通事故で重傷を負い、救命救急センターに搬送された患者の3割が、約1カ月後にうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患を発症していたことが、厚生労働省研究班(主任研究者、金吉晴国立精神・神経センター部長)の調査で19日、分かった。
(中略)

調査は国立病院機構災害医療センター(東京都立川市)の救命救急センターで2004年5月から実施。搬送の24時間後から患者に精神科医らが面接し、18歳から69歳までの100人の状態を追跡した。頭部にダメージのある人や、以前から精神疾患のある人らは対象から除いた。

結果によると、4-6週間後の診断で31人が精神疾患を発症。内訳は、うつ病が症状の重い「大うつ病」16人と、比較的軽い「小うつ病」7人、PTSDが8人だった。31人の中には、退院はしたものの、事故がきっかけのアルコール依存症を併発している人もいた。

詳しい分析の結果、事故時に生命への脅威を感じた人や、恐怖の記憶が強かった人ほど、精神疾患を発症しやすい傾向にあったという。(後略)

 

これは、私のようにトラウマやPTSDを専門に扱う人間に言わせると、まったく目新しいことではありません。交通事故や手術など、身体にとっての脅威が、大きな心理的ダメージを引き起こすのは、トラウマのメカニズムを考えれば当たり前なのです。(詳しくはこちらをご覧ください)

トラウマは、一義的には脅威に対する身体の反応が未完了であるために起こります。生きるか死ぬかの状況を体験した人が、常にまだその脅威が継続しているかのように感じてしまい、そのせいでうつ状態になったり、その状態をまぎらわすためにアルコールに手を出してしまうのはよくあることです。

そして、大切なのは、こうした事故後の症状は、適切なケアをすることで軽減することが可能だということです。事故に遭ってしまった以上、一生こうした症状と付き合わなければならないということはまったくありません。私の行うトラウマ療法のメソッド、ソマティック・エクスペリエンス(SE)は、交通事故後のケアには非常に効果的です。

私自身、米国で大きな交通事故を経験しました。フリーウェイから降りた直後に、横道からストップサインを無視して突っ込んできた車と衝突したのです。運の悪いことに、私の車には4人も同乗者がおり、私を含めて3人が救急車でERに運ばれました。私は、フロントガラスに頭をぶつけて眉の上を6針縫うけがで(シートベルトをしていなかったら確実にフロントガラスを突き破っていたことでしょう)、その傷は縫った後は大したことがなかったのですが、事故後数日経ってから注意力が散漫になり、財布を落としたり大切な手帳を置き忘れたりというミスが連発しました。それよりもつらかったのは、運転者として、何人もの友人を事故に巻き込んでしまったという罪悪感です。

そんな中で私はSEのセラピストからセッションを受けました。彼女が私の意識を身体に向けるように誘導してくれると、突然背中がものすごく痛み出し、私は号泣していました。そこで初めて、私は事故が自分の心身にとっていかに大きなダメージだったかを実感したのです。それまでは、友人たちに対する罪悪感と心配で気もそぞろで、セラピーを受けた理由も主にそのことだったくらいでしたから。

私の背中の痛みは、事故から一週間は抑えられて表に出なかったのです。それが、安全な場所でサポートを受けることによってようやく自分でも感じられるようになったのでした。事故の後、身体症状が出てくるまでに時間がかかるのは珍しいことではありません。そして、身体症状が出てくるのは、悪いことではなくてよいことなのです。身体のつらさを感じられないままでいると、それがうつなどの心理的な症状に転換されてしまうこともありますから。

繰り返しますが、交通事故は、軽微なものであっても、身体にとっては生きるか死ぬかの脅威になることがあります。そして身体がそういう風に感じたままだと、それはうつやPTSDなどのつらい症状となって現れます。

でも、それは適切なサポートによって必ず軽減されるのです。私は今現在、何の後遺症にも悩んでいません。でも、もしきちんとしたケアを受けていなければ、今でも背中の痛みや、同乗者のいる車に乗る恐怖を抱えていたかもしれません。未解決のトラウマは、残念ながら「時間がすべてを解決してくれる」ことはないのです。それどころか、時間が経つにつれてますますひどくなってしまうこともあります。

交通事故後のトラウマでお悩みの方は、ぜひ一度ご連絡ください。

 

藤原ちえこのセラピーはこちら

 

メルマガ登録はこちらから

 

藤原ちえこの著作はこちらから