ジャーナリスト伊藤詩織さんが、元TBSワシントン支局長から受けた性暴力をめぐる民事訴訟で勝訴しました。
トラウマセラピストとして日々性暴力の被害者にセラピーをしているわたしがこの判決を聞いた時の感慨は、本当に、一言では言い表せません。
近年まれにみるうれしいニュースではありましたが、もちろん、うれしいという気持ちだけでは嘘になります。
性被害を受けてからこの判決が出るまでに、彼女がどれほどの苦しみを味わったか、想像するだけで胸がつぶれそうになります。
今回のケースのおかげで、「セカンドレイプ」という言葉が一般に浸透しましたが、
性暴力の恐ろしさは、受ける衝撃が、被害そのものにとどまらないことです。
被害を受けたあとに、捜査機関や、専門家、周囲の人からの心ない振る舞いや言葉で、被害者がさらにどれほど傷つくことか。
それを考えると、性被害を通報する人が少ないのも当たり前で、
泣き寝入りする被害者を責めることはまったくできません。
(この国の性犯罪の通報率は2割に満たないといわれています)
ましてや、被害に逢ったことを実名で公表することは、どれほどのリスクを伴うことでしょうか。
だから、欧米ですら、性被害を公表する人はほとんどいません。
今回の詩織さんのケースでも、警察の不逮捕、検察の不起訴、相手からの事実無根の反論と中傷、反訴、ネット上でのバッシング。
バッシングの先鋒の一人は、残念ながら女性の国会議員でした。
見るに耐えないようなイラストで彼女を中傷した漫画家の女性もいました。
そういう二次被害と不正義に晒されつつ、長い長い裁判を戦い抜いた詩織さん。
彼女はインタビューで「私は強くない」と言っていますが、
自らの弱さをきちんと認めることを含め、本当の意味での強さがなければ、今回の結果はなかったと思います。
そして、彼女が公表し、裁判を戦ったことで、今まで黙って被害に耐えてきた数えきれない女性たちが、どれほどの勇気をもらったことでしょう。
詩織さんの判決を聞いて、私が思い出したもう一人の女性がいました。
サンフランシスコに住むシャネル・ミラーさんです。
ミラーさんは、詩織さんが性被害に逢ったのと同じ2015年に、米西海岸の名門スタンフォード大学のキャンパスで性的暴行を受けました。
自転車で通りがかった大学院生2人が、未明のキャンパスのゴミ捨て場の裏でミラーさんをレイプしていた男を発見して取り押さえ、警察に通報したとき、彼女は酩酊状態で意識がありませんでした。
この事件が当時全米の注目を集めたのは、
加害者がスタンフォード大学1年生の花形水泳選手だったこと、
最高で禁錮14年の量刑が課せられる性的暴行事件で、検察も禁錮6年を求刑していたにもかかわらず、
判決はたったの禁錮6ヶ月で、加害者が黒人だったときと比べて明らかに軽すぎたことなどからです。
判決当時は、性暴力に寛大、かつ白人の特権を考慮したとみられる量刑に対する批判が殺到し、
加害者と同じスタンフォード大学卒だった裁判官の罷免運動にまで発展しました。
被害者保護のため、ミラーさんの名前は裁判の間ずっと匿名を保たれましたが、
彼女が判決の際に公開した長文の陳述書は多くの人の心を打ち、何カ国語にも翻訳されて瞬く間にネットで世界中に拡散しました。
この陳述書を読むと、性的暴行の裁判は、洋の東西を問わず、プライバシーを侵害するひどい質問を次々に浴びせられる、被害者を何重にも傷つけるものだということがわかります。
長く「エミリー・ドゥ」という偽名で呼ばれていたミラーさんは、
事件からまる5年近く経った今年9月、実名での手記を出版しました。
その名も「Know My Name(わたしの名前を知って)」。
そしてミラーさんは、さまざまなメディアに登場するようになりました。
私の大好きなオプラ・ウィンフリーから、長いインタビューを受けている動画がこちらです。
自らも性的虐待のサバイバーで、10代の頃暴行されて妊娠・出産の経験もあるオプラは、
これまでに、自分の番組で通算217回、性被害や性的虐待について取り上げてきたそうです。
本当にすごいことです。
metooムーブメントが始まるはるか以前から、彼女はこの世に蔓延する性暴力をなくす運動を地道に続けてきた。
このインタビューも、とても心を打たれます。
(英語のわかる方、ぜひご覧ください!)
ミラーさんはインタビューの中で、
「性暴力という、普段は密室の中で行われる出来事に二人の目撃者がいたわたしは幸運だった」という趣旨のことを言っています。
大学院生二人が現場を通りかかり、逃げようとする加害者をタックルで取り押さえ、警察に突き出さなければ、
この事件も、世界中の他の何万件、何十万件の性被害と同じように、被害者が誰にも相談せず、一人で長い間苦しみ続けるケースに終わった可能性は大きいのです。
(それはミラーさん自身も語っています)
そしてミラーさんの身元は完全に守られていたにもかかわらず、
(身近な友人たちでさえ、彼女がエミリー・ドゥだったことを知らなかったそうです)
彼女は、実名で世に出ることを決心しました。
それは、彼女が、自分自身を取り戻すために必要なステップでした。
そのミラーさんの勇気を、わたしは心から讃えたいと思います。
そして、自ら性被害を公表した詩織さんの勇気と覚悟を、改めて心から賞賛します。
詩織さん、本当にありがとうございます。
あなたの勇気ある行為が、どれほど多くの女性たちを励まし、影響を与えているか、わたしはよく知っています。
性被害に逢った女性たちすべてが、一人でひっそりと苦しむのではなく、必要な助けが得られるように、
わたしは自分の全身全霊で祈っています。
あなたたちが沈黙を強いられ、
加害者が訴追もされず、普通に生きている社会は、明らかに間違っています。
性被害で傷ついたみなさまへ。
あなたは決して、決して一人ではありません。
そしてあなたが受けた傷は、恥ずべきものでも、隠す必要があることでもありません。
そしてあなたはまったく損なわれていないし、汚れてもいません。
(恥ずべきで、汚れているのは加害者の方です)
それを決して忘れないで、堂々と助けを求めてください。
決して一人では抱えないでください。
わたしたちが癒されるためには、お互いの存在が必要なのです。
そして、あなたの傷は、必ず癒えます。
だからあきらめないで、適切な助けを求め続けてください。
わたしのカウンセリングルームも、そんな助けのひとつになればいいと、いつも願っています。
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