先週発行された、5月17日付の「図書新聞」に、「心と身体をつなぐトラウマ・セラピー」の本格的な書評が掲載されました。
その一部を転載させていただきます。
「トラウマは治癒可能」と斬新な考え方を提示―原始的、本能的な野生動物の行動研究と関連づけ」村木哲
(前略)本書では、「トラウマは治癒可能」であり、「長時間のセラピーや、痛ましい記憶の再体験や、薬への継続的依存なしに癒せる」し、「過去を変えることは必要でも可能でもないこと」に気づくべきであると著者はいう。そして、「古いトラウマ症状は、しばりつけられたエネルギーと、失ってしまった成長の機会を意味し」ているから、そのエネルギーをマイナスからプラスへと転化させる契機(「動物的な感覚」もしくは、「原始的な本能」)を内発的に喚起すれば、症状は溶解し治癒へと向かっていくことができるはずだと述べている。
確かに本書は、多様な症例と具体的なエクササイズが示されていて、トラウマの癒しへ向けたガイダンスといった意味あいがあるのだが、そこで展開している分析は、通常のカウンセリング本とは違い、斬新で新鮮な考え方を提示していて、実に示唆に満ちているのだ。本書の訳者は「まったく新しいトラウマ解決のための本」だとまでいい切っている。
・・・かつて生態学者、三木成夫は、人間の身体器官は動物系と植物系によってかたちづくられていると叙述していた。もちろんこれは、生物史を進化の累積として捉えることで到達した考え方ではあるが、本書の著者もまた、同じような思考プロセスを踏まえているといえそうだ。これまでの治療スタンスは、心身を分岐して、心の問題とし、意識下に視線を向けていたといえる。そこでは、ほんらい潜在化して心の領域と深く関わっていた動物系の機能が、見落とされていたと著者は見做しているのだ。だから、著者が向かっていく方位はプリミティブな自己治癒力といったものへの遡及あるいは顕在化ということになる。
・・・動物的なことの顕現として、〈群れ〉ということがある。しかし、人間は〈個的〉であることを了解しうる存在でありながらも、ほんらい〈群れ〉を渇望しその中で生きていくことを必然としていたはずだ。トラウマに限らず、心の断層は、孤絶化によって堆積を過剰にさせていく。本書が斬新で戦列な考え方を提示しているといえるのは、こうしてトラウマ症状を拡張し、その解析を、現在という場所にるわたしたちの心的な領域を見据えているからである。(後略)
・・・なんて明晰で、著者の意図を正しく汲み取っていただいた書評なんでしょう。この本の主題は非常に斬新なので、一般の心理学や精神医学業界からはあまり受け入れられないのかもしれませんが、ちゃんとこの本の素晴らしさを理解していただける人もいるのだということが分かり、訳者としてはこれに勝る喜びはありません。
・・・まあ、すでに12ヶ国語に翻訳されているロングセラーですから、そのうち日本でも広く受け入れられることを確信していますが(笑)。
図書新聞さま、どうもありがとうございました。