最近、
米国のセラピスト向け雑誌「Psychotepray Networker」に掲載されていた
面白い記事を読みました。
ジェイ・エフラン博士という心理学者が書いたこの記事のタイトルは、
「白紙状態(Blank Slate)をやめる」。
心理療法では一般に、セラピストはひたすらクライアントに寄り添うのが良いとされています。
そして相手のセラピーのプロセスを妨げないために、自己開示は極力避けるのが普通です。
ゆえに、自分の価値観は脇に置いて、相手の話を尊重する。
相手にただ共感する。
常に中立的な立場を取る。
心理療法において、セラピストは通常、上記のような姿勢(Blank Slate)を取ることが多いと思います。
(ナラティブセラピーなど、
セラピストの透明性と自己開示を大切にしている技法も中にはありますが)
わたしも、この仕事を始めた頃は、極力自己開示を避け、
自分と価値観が違うことをクライアントが言っても、それに対しては黙っていました。
でもある時期から、そういう姿勢を捨てることにしました。
なぜならわたしは、セラピストである以前にまず、わたし自身だからです。
そして、わたしがわたし自身であり続けなければ、クライアントさんがその人自身になるサポートなどできるわけがないと気づいたからです。
もちろん、どうしてもクライアントが言うことに同意できない時も出てきます。
その場合、セラピーのプロセスに必要であれば、そのことを相手にはっきり伝えるようになりました。
ロジャースが言うように、セラピストの自己一致は何よりも大切だからです。
上の記事は、そのわたしの姿勢を後押ししてくれるものだったので、とても興味深く読みました。
記事の中で、エフラン博士は、セラピーの中で自分が自己をさらけ出した2つのエピソードについて紹介しています。
ひとつめは、自分がものすごくショックな出来事があってひどい気分でいた日に、一人予約が入っていることに気づいたときのこと。
急病になったと嘘をついてキャンセルしようとして、ふと思い直し、博士はそのままセラピーを行なったそうです。
最初に自分の状態を正直にクライアントに話し、「今日助けが必要なのは自分の方だ。だから今日のセラピーは料金を取るつもりはない」と言ってセラピーを始めたところ、
自分の気分がよくなったばかりではなく、クライアント自身にもそれまでのセラピーでは見られなかった、非常に良い結果がもたらされたといいます。
(あとから振り返って、無料どころか倍の料金を取ってもよかったと博士は思ったそうです 笑)
もうひとつは、妻から紹介されてきた男性クライアントが、人のあら探しと仕事の愚痴を延々と話すばかりだったので、3回目のセッションの時にたまりかね、エフラン博士が思わず自分の本心をぶちまけたときのこと。
「2つ君に伝えたいことがある。
ひとつめ、私は君が嫌いだ。
ふたつめ、君が言ったことを私は何一つ信じない」
すると相手も、「実を言うとわたしもあなたが嫌いで、セラピーは完全なナンセンスだと思う。妻に言われたから来ているだけだ」と応じた。
「今の言葉で初めて君を信じることができたよ」と博士は言い、もう二度と彼はセラピーに戻ってこないと思ってセッションを終えたそうです。
そしたらなんと、4ヶ月後に本人から連絡があり、彼とのセラピーが再開されました。
彼は別人のようにセラピーに協力的になり、二人の間にはラポールも生まれ、博士は毎週彼がやってくるのが楽しみになった。
そして彼は博士に、博士を再びセラピストに選んだのは、博士の率直さが理由だったと告げたそうです。
「あなたなら常に本当のことを言ってくれると信じられるから」。
わたしのセラピーでも、わたしが自分の価値観を伝えたときに、
その価値観が相手の価値観と相容れず、セラピーが終了になるケースはあります。
で、わたしは、完全にそれでいいと思っています。
わたしが、自分の本心を押し隠して、表面的にクライアントさんに合わせても、
のちのち、セラピーがうまく行かなくなることは目に見えているからです。
私のクライアントさんはみな知っていることですが、
わたしはセラピーで、心にもないことや、口当たりが良いだけのことを言うことはまずありません。
現時点で自分が相手にとって最善だと思うことは、わたしはつい口にしてしまいます。
かなり口が悪いこともあるし、ものすごく率直です。
なぜならわたしは、クライアントさんに最速で元気になってもらうために常に心を砕いているからです。
でも、それは私の価値観であり、
もちろん、根本のところでは変わらない、変わりたくないという人だってたくさんいます。
それは本人の選択なので、わたしは彼らの選択も最大限に尊重します。
だって、かくいうわたし自身にすら、頑固にしがみついている、傷ついた自分というアイデンティティは、奥の奥をたどれば今でも確かに存在していますから。
だから、わたしのところに来てくださる方に、まだ変容の準備ができていなくても、もちろんそれは仕方ないんです。
わたしの役目は、
「ここにちゃんと光があるよ」と、灯台みたいに、その光を掲げ続けることだけだと思っています。
(灯台といえば、この絵本、むちゃくちゃいいのでぜひお読みください。わたしはこれを読んで号泣しました)
そうすればそのうちまた、つらくなった時にふと遠くを見て、そこに光があることに気づいてもらえるかもしれないですからね。
わたしはあなたが根本から癒されることを、いつも心から祈っています。
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