先日、札幌で、
我が家で小さな夕食会を開いたとき、
わたしがこれまで抱いていた、
「肉」の概念が完全にひっくり返るほどの、
衝撃的なエゾシカ肉のローストを、食べました。
エゾシカ肉は、北海道では、わりと手に入りやすい食材です。
わたしもこれまでに、
友人の友人の猟師さんが撃ったもの、
道央の業者から取り寄せたもの、
自然食品店で買ったもの・・・などなど、
さまざまな鹿肉を、
カレー、しゃぶしゃぶ、ロースト・・・など、
さまざまな調理法でいただいてきました。
(エゾシカは今や害獣扱いなので、
流通ルートを拡げることが、
生態系のサイクルを取り戻すことにつながるという
なかば「政治的」な理由もあり、
普段は肉をまず食べない私ですが、
鹿肉だけはわりと積極的に食べていました。
鉄分豊富で脂肪の少ない、とても美味しい食材です)
その、鹿肉経験が豊富なわたしでさえ、
本当にびっくり仰天するほど、
その時食べた鹿肉は、
過去に食べたどんな鹿肉よりも美味しかったのです。
そして、そのお肉にまつわる話を聞いたとき、
なぜこれほどまでに美味しいのか、
ものすごく納得しました。
その食事会で、料理を作ってくれたのは、
Mちゃんという、24歳の若い料理人でした。
(このMちゃんがまた、すごい人なのですが、
彼女についての説明はまたの機会に)
参加者の一人がベジタリアンだったので、
彼女が作ってくれた料理は、
美味しいビリヤニや米粉の餃子など、
すべてヴィーガン。
途中で一皿だけ、
「あ、これ忘れてました」と出してくれたのが、
その、鹿肉のローストでした。
(鹿肉好きなわたしが、
一品だけ鹿料理をリクエストしておいたのです)
食べ物の美味しさを言葉にするのって難しいですが、
なんというか、 柔らかさも、焼き加減も、歯応えも、香りも、
本当に素晴らしく、
至福としか言いようがない一品でした。
で、そのローストは、
道東在住の彼女が、
自分で仕留めて、さばいて、
調理まで、全部自分の手で行った一品だったのです。
Mちゃんは本当に、なんでもできる人なのですが、
狩猟免許まで持っていたとは、 その時初めて知りました。
彼女自身、 お肉をあまり食べる人ではないので、
自分が年間に食べるくらいの量は自分で調達しようと、
狩猟免許を取ったんだそうです。
一頭、仕留めれば、
充分、一年分の肉として足りるとのこと。
そして、どうせ食べるなら、
一番美味しい、 2歳のオス鹿を狙うんだということです。
(若いメスも美味しいと言われていますが、
オスを獲る方が種全体への影響が少ないのと、
メスは角がなく、年齢を見分けにくいから 雄鹿にするのだと言っていました。
アイヌの人たちも、2歳の雄鹿が一番美味だと言うそうです)
さらに、ふもとに降りてくる鹿は、
農薬がかかった野菜を食べている可能性があるので、
山奥にいる鹿を探す。
仕留めた肉は、
その場で血抜きをし、
内臓もさばいて、
食べられない部位は、その場に埋めていく。
血抜きをするときに、まだ鳴いている鹿もいるそうで、
「何とも言えない気もちになります」 とのことでした。
ミニマリストである彼女は、
大きな冷蔵庫は持っていないので、
肉は細かくさばき、
冷凍しきれない肉は、
干して保存する。
そうやって、
その鹿が森を駆け回っていた時から知っている彼女が、
手をかけ、氣持ちを込めて、
絶妙の焼き加減で出してくれたのが、
件の鹿肉だったわけです。
美味しくないはずが、ありません。
彼女から聞く、猟友会の人々の話も、
とても興味深かったです。
「農家で、いつも鹿害に悩まされている人が、
たくさん仕留めて喜ぶのはまあ理解できるんですけど、
角だけが欲しくて、
その場で角を切り取って、 死体をその場に放置して帰る人、
(本来は違反だそうです)
とにかくレジャーとして、
撃つことそのものを楽しむために、何頭も殺す人、
妊娠中のメスを仕留めて、腹を割いて仔鹿を出して、
「二頭仕留めたぞ」と喜んでいるおじいさんなど、
いろんな人がいるんです」
そういう人たちに混じり、
Mちゃんは、
自分が食べるための、最小限の肉を自然からいただき、
解体から保存、調理まで、 すべて自分の手で行っている。
なんて、尊い行為なんだろうと思います。
その尊いお肉を食べ、
その肉にまつわる話を聞いて、
本当に、身も心も、 しみじみ満たされました。
ジビエである鹿肉は、
ただでさえ、 普通の肉とはエネルギーがまったく違います。
家畜肉のように、食後身体が重くなることはなく、
逆に、食べたあとに身体全体が なんとも言えず清々しい感じになるのです。
ただでさえエネルギーが高い肉を、
さらに良いエネルギーを込めて処理、調理された、 とっておきの一皿。
いのちをいただく尊さを、 身に染みて味わった、 本当に貴重なひとときになりました。
エゾシカさん、ありがとう。(Photo by Takashi Noguchi)
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