待ちに待った本が届きました。
記者時代の大先輩、氏岡真弓さんが朝日新聞で紹介していた、2009年に16歳で亡くなった臼田輝くんの生前の言葉をまとめた本です。
輝君は、一歳の誕生日直前に、マンションの5階から転落し、奇跡的に一命をとりとめたものの、脳損傷により四肢に重い障害を負います。
歩くことも、はなすことも、自力で座ることもできません。
何も話せない彼が、何を感じ考えているか、周囲の人は深いレベルで理解することはできなかったのです。
(もちろん、言葉を超えた心の通い合いはいつでも存在したでしょうが)
そんな彼が中学1年生の時に、転機が訪れます。
特殊なパソコンツールを用いて、輝くんのように言葉でコミュニケーションできない人の表現を助ける研究をしている、國學院大学の柴田先生との出会いです。
輝くんのわずかな手の動きを柴田先生がサポートし、五十音のスイッチを操作することよって彼が紡ぎ出した最初のメッセージは、
「せかいからせんそうがずっととだえて
てきみかたきめずに くらしていけたらいいのに。」
それは自分の身体の不自由さを嘆くのでも、要求でもなく、途方も無く深淵な言葉でした。
周囲の大人たち、びっくり仰天です。
それ以降、輝くんは、柴田先生とのやり取りの中で、宝石のようなメッセージを次々と編み出していきます。
「しぜんがふしぎなちからを ぼくにさずける
こころにしみわたるいのりにこたえつつ
よきへいわと ちきゅうのみらいをねがう」
「くなん それはきぼうへのすいろです
けっしてあきらめてはいけないことを おしえてくれます
てのなかに うつくしいていねんをにぎりしめて いきていこうとおもう。
(中略)いきるということは くなんとなかよくしていくことなのです」
「しあわせのいみを きぼうのなかにさがすのではなく
ひとりひとりのいきかたのなかに みいだしていかなくてはならない
(中略)たとえ しは ししのようにおそいかかってくるかもしれないが
ちいさいぼくは ひとり くとうをつずけていくつもりです」
「ゆいつ あいだけがしんじられるものです
きのうのくるしみは きのうというじかんのなかに おいてきて
みらいというじかんのなかにあるのは しんらいという
いちばんじぶんをささえてくれるあいです」
これらは、彼の残した数々の言葉の一部です。
私は、読みながら涙が止まりませんでした。
彼が、自分の中で長い間、外に表現されずにあたためてきた、極限まで研ぎすまされた美しい言葉に触れて、
私の心の中も、きれいに洗い流されていくようでした。
彼の残した珠玉の言葉は、彼の希望通り、亡くなった後に出版され、多くの人に届けられることになりました。
彼の言葉は、彼の肉体が地上を去ったこれからも、多くの人の心に響き、励まし続けてくれることでしょう。
こういう形で、輝くんに出会えて本当に良かったです。
最近はあまり真面目に新聞を読まなくなった私が、たまたま氏岡さんの記事を読んだのも、きっと必然だったのだろうなと思います。
皆さんも、よろしければぜひ読んでみてください。
(出版元の愛育養護学校に申し込むと、郵送してくれますよ)