最初に、トラウマというのは、一般的に考えられているよりもずっとありふれたものだと書きました。ここではその具体的な例について見ていきましょう。

交通事故

交通事故は、もはやあまりにもありふれた日常的な出来事になってしまったので、私たちはそのインパクトを忘れがちです。でも、一見軽微に見える追突事故でも、心身が受けるダメージというのは、実はとても大きいのです。ましてや、動いている車同士の衝突が人に与える衝撃は計り知れません。

事故の直後はふつう、起こった出来事に対処するためにアドレナリンが噴出します。そのため私たちは元気一杯で、多くの場合は高揚しています。事故直後、同乗者を守ろうとして自分のことがそっちのけになったり、興奮して痛みを感じなかったりという経験は多くの方が思い当たるのではないでしょうか。

最初の興奮がすぎると(それは数時間から、場合によっては数日かかります)、私たちは急に激しい疲労を感じます。ムチ打ちなどの症状が出てくるのも、人によっては何日も経ってからです。人によっては激しく落ち込んだり、感情的になったり、自分を責めたり、不安発作に襲われたり、眠れなくなったりすることもあるかもしれません。これはすべて事故後の正常な心身の反応なのです。

ここで私たちが扱っているのは、理性ではなく本能であることを思い出してください。私たちの理性は、「大した事故じゃなかったよ」「保険に入っていてよかった」「どこにも外傷がないんだから自分は大丈夫なはずだ」などと、体験を合理化して「なかったこと」にしたがります。しかし、私たちの脳の原始的な部分は、それとはまったく異なった反応をしています。身体にとっては、鉄の塊が自分にぶつかってくるというのは、まぎれもない生命の危機です。そしてそれに対応するために莫大な量のエネルギーを放出し、そのエネルギーが行き場を失ってさまよっているために、上記のような症状が出てきてしまうのです。

また、事故がきっかけで、抑えていた自分の他の感情的問題が噴出してくることがあります。子ども時代のつらい記憶がよみがえったり、別の恐ろしい体験を思い出したり、自分の生きにくさがさらに増したりといった体験をする人もいるでしょう。トラウマというのは原因にかかわらず同じ症状を呈することを考えれば、これも当たり前のことなのです。逆に考えれば、事故でそうした症状が出やすくなっているときこそ、自分の感情的問題を解決する良いチャンスかもしれません。どうぞ交通事故を軽く見ることなく、身体的、感情的に自分をケアしてあげてください。

そして、交通事故の後遺症は、身体に働きかけ、自律神経系の自己調整を取り戻していく手法で治癒させることができます。事故からどんなに年月が経っていて、症状が固定してしまっているように見えたとしても、自律神経系への適切な働きかけによって症状を軽減させることは不可能ではありません。

交通事故のトラウマに関しては、こちらの記事もご覧ください。

手術などの医療処置

手術や病院でさまざまな医療処置を受けることは、私たちの日常ではごくありふれたことです。でも、そうした処置が時として多大なトラウマ症状を引き起こす可能性があることには、ほとんどの人が気づいていません。

手術は、身体にメスを入れる行為です。たとえ麻酔がかかっていても、身体にとっては暴漢にナイフで襲われているのと原理的には同じ体験です。麻酔は、人間の正常な神経系の活動を遮断する行為であるため、そこでブロックされたエネルギーは行き場を失ってしまいます。

手術のトラウマを予防するためには、麻酔に入る前の心身の準備と、麻酔から覚めた後のケアが不可欠ですが、そのことに気づいている医療関係者は極めて少ないのが現状です。手術や怪我の処置のあと、病院を極端に怖がるようになったり、不機嫌で怒りっぽくなったり、悪夢にうなされるようになったりする子どもは珍しくありません。親は途方に暮れてしまいますが、病院や歯科医院での処置もトラウマの原因になりうるという知識があれば、対応もまた変わってくるでしょう。

そして、術後の不調は、自律神経系に働きかけるセラピーで改善させることができます。長引く術後の不調や医療トラウマにお悩みのかたはぜひセラピーを受けてみてください。

性的虐待

私のカウンセリングルームには、子ども時代に家族や知人から性的虐待を受けた体験のある方が多くいらっしゃいます。性的虐待は、戦争と並び、考えられるもっともつらいトラウマの体験のひとつだと思います。成育過程で性的虐待を受けた方たちは、心身のさまざまな不調と低い自己肯定感に苦しみ、外見上は何ら普通の人と変わりなくても、日常生活を送るために陰で大変な努力をされている方が少なくありません。

しかしながら、性的虐待や性被害のトラウマは、一生苦しまなければならない終身宣告ではありません。虐待/被害の内容に触れることなく、身体の持つ叡智に直接アクセスして、ゆっくりと安全に、少しずつ、自分の身体内にいることに安心感を持てるようになり、最終的に癒されて元気な自分に戻ることは十分可能なのです。ただそのためには、過去にさかのぼってつらい出来事を話すことを強要するようなセラピーや、症状を薬で抑えるだけの対症療法、激しい感情を何度も再体験させるような暴露的なセラピーは、余計に後でつらくなるだけですのでなるべく避けるようにしましょう。

癒しは、歯をくいしばって過去の自分に無理矢理向き合うつらい作業である必要はありません。今の自分を癒す鍵は、すべて自分の身体の中にあります。その身体の叡智におだやかにつながりながら、元気な自分を取り戻していきましょう。

そのために大切なことは、話したくない時には、自分の体験を話さないことです。私のセッションでは、自分が話したくないことを無理に話す必要は一切ありませんし、話さなくてもそれでセラピーができない訳ではありません。なぜなら、私たちがターゲットにしているのは嫌な目に逢った身体であり、身体感覚にアクセスする際には、言葉での説明は必ずしも必要としないからです。

なのでどうぞ、安心してセラピーを受けにきてください。私の経験上、性的虐待のケアはやはり時間をかけてゆっくり取り組む必要はありますが、時間をかける覚悟さえあれば、私のところにいらしてくださるクライアントさんで、虐待の後遺症が改善されなかったケースはこれまでにありません。

勇気を出して、自分の癒しに踏み出そうと決心したあなたを私は心から誇りに思います。いつでもあなたのご連絡をお待ちしています。