ソマティック・エクスペリエンス(SE)は、NASAのコンサルタントも務めた米国のピーター・リヴァイン博士によって開発された、身体をベースにした画期的なトラウマ療法です。
ロルフィング、フォーカシングなどの身体心理療法のエキスパートであるリヴァイン博士は、35年にわたってトラウマが起こるしくみとその癒しのメカニズムについての研究を行ってきました。彼はトラウマを研究するにあたって、以下の2点に注目しました。
- トラウマを受けた人は、そのトラウマの種類(事故、自然災害、レイプ、暴力を目撃すること、虐待、戦争など)にかかわらず、だれもが同様の症状に苦しんでいる(不安、不眠、解離、フラッシュバック、パニック発作など)。
- 野生動物は、常に自分よりも大型の捕食動物からの攻撃にさらされているにもかかわらず、人間のようなトラウマ症状に悩まされることがない。
以上の点から、リヴァイン博士は、トラウマというのは出来事や心理的・精神的な問題というよりはむしろ、生理的・神経的な問題であるという結論を導き出しました。生物は、危機に直面すると交感神経が最大限に働いてアドレナリンが噴出し、逃げたり戦ったりすることが可能になります。しかし、状況がそのどちらも許さない場合、「凍りつく」ことでその場を切り抜けようとします。この凍りつき(硬直)は、生物がトラウマの瞬間の苦痛を感じずにすむためのメカニズムなのですが、この時も外見上は静止しているように見えても、神経系の中ではエネルギーがフルに回転しているのです。
リヴァイン博士は、この、危機に対処するために動員されたものの、凍りついて解放されないままに体内にとどまっている大量のエネルギーこそが、トラウマの症状を作り出していると考えました。動物は、仮に硬直したとしても、危険が去った後には自然に身ぶるいをしてその凍りついたエネルギーを振り落とし、通常の状態に戻るのでトラウマの影響を受けることはありません。しかし、人間がトラウマの後遺症に苦しむのは、高度に発達した脳が、動物のように自然なそのエネルギーの「振り落とし」を妨げるためなのです。「元々のトラウマに似た状況や人に引きつけられる」「頭では分かっているのに、いつも同じ問題を繰り返してしまう」というトラウマ被害者に特有の状況は、頭では問題を理解していても、未解放のエネルギーが今も神経系の中でトラウマ状態にとどまり、フル回転しているために起きていると考えられます。
従って、トラウマの癒しには、起きた出来事を繰り返し振り返り、それにまつわる感情的な痛みを体験するようなセラピーでは限界があるばかりか、時として再トラウマを引き起こす恐れもあるとリヴァイン博士は警告しています。その代わりに、身体のフェルトセンスを使い、身体感覚を手がかりにして未解決のトラウマにアクセスし、余剰エネルギーを少しずつ解放してやることで、症状を軽減することができるのです。
SEのセラピストは、大きなショックを与える出来事により身体にブロックされてしまったエネルギーを、穏やかに身体に働きかけながら開放していきます。クライアントは、過去のつらい体験を無理に言葉にして語る必要はありません。癒しに必要な情報は、すべて身体の中に記憶されているからです。SEは非常に非暴力的で優しい、クライアント中心的なセラピーの技法で、アメリカやヨーロッパ各地で、多くの人々のトラウマの癒しに大きな効果をもたらしています。
(ソマティック・エクスペリエンスに関する説明は、こちらもどうぞご覧ください)
SEのセッションは、特にこういう方に向いています
- これまで他の心理療法やカウンセリングを受けたが、効果を感じられなかった方
- 抗うつ剤、抗不安薬などの向精神薬を減らしたい方
- 事故、手術、虐待、暴力など、あらゆるトラウマによる後遺症でお困りの方
- 原因不明の身体的、心理的な症状でお困りの方