リストカットは、私が最も得意とする症状のひとつです。私の専門は自律神経系の自己調整を取り戻すサポートで、リストカットには自律神経系の調整不全が密接にかかわっているからです。
誰かがリストカットをしていると、周囲は結構深刻に受け止め、自殺願望と結びつけて大きな騒ぎになることもありますが、ほとんどの場合、手首を切る人は死にたいから手首を切っているわけではありません。
リストカットに至るプロセスには2つあると私は考えています。
1。何かのストレスがきっかけで(あるいは特に外的なストレスがないときでも)自分の中にどこにも持っていきようのない焦燥感や不安感、不快感が出てきたときに、手首を切ることでその不快感が鎮まる。
2。解離がひどく、常に自分と世界との間に膜がかかっているように感じたり、自分が生きている実感がまったく得られないときに、手首を切ることでようやく生きている感覚を持つことができる。
1のケースは、交感神経が過剰に活性化しているときの症状です。2のケースは、副交感神経がシャットダウンし、生命が自己保存モードになっているときの症状です。いずれの場合も、本人の中にはコントロール不能に感じられるどうしようもないやるせなさや焦りなどの感覚があり、その感覚から逃れるために手首を切ってしまうのです。
つまり、リストカットは、生きるための行為なのです。何とか生き延びるため、自分の中の耐え難さと何とか折り合いをつけるために自分が編み出した自己治療です。なので、表面的な症状を取ることだけを考えても意味がありませんし、意志の力で止めることもできません。リストカットすることで何とか生き延びてきたのに、それを外から禁止されたら本人は余計に苦しくなってしまいます。
上記のように、リストカットは自律神経系の調整不全という観点から見ると非常にシンプルな症状なので、こちらのセラピーが非常に良く効きます。1回、あるいは数回のセッションでリストカットの衝動が収まるケースは決して珍しくありません(ティーンエージャーの場合は多少回数が多くなる傾向があります)。ただ、リストカットの問題を抱えている方は、症状がそれひとつだけということはまずないので、他の症状も含めて全体でケアしていくためには、ある程度の期間通われる方がほとんどであることは申し添えておきます。