子どもの出すサインは、どんなに小さくても一大事


皆様、

こんにちは。

先日のポスト以来、大学院のチャイルドセラピーの授業のノートを何度も読み返しています。
読めば読むほど、なぜ私が、いつもいわゆる「問題のある子ども」が連れてこられたときにそれを鵜呑みにはしないのか、
なぜ必ず、親との面接をリクエストするのか、その理由がよく分かりました。

自分ではすっかり忘れていましたが、チャイルドセラピーの先生デービッドやファミリーセラピーの先生ジュディなど、当時の先生たちからの刷り込みだったんですね(笑)。

 

・・・本当に役に立つことを刷り込んでくれたなあと、感謝しています。

 

20年近く前に教わったことが今も臨床で生かせるなんて、彼らの教えが間違っていなかったということですよね。
世界一の大学院で学んだ甲斐がありました(笑)。

 

思い返してみると、大学院の授業はそれぞれ本当に実践的で面白くて、
例えばチャイルドセラピーの授業では、デービッドがいつも子どもの症例を話しては、
「これは一体どういうケースだと思う?」と尋ねて、私たちにいろいろ推理する楽しさを味わわせてくれましたし、
精神病理学の授業の最後に書かされた論文は、ロバート・レッドフォード監督の映画「普通の人々」を見て、メアリー・タイラー・ムーア演じるお母さんの診断名を考えるというものでした。
(あ、その論文、わたくしAプラスをいただきました 笑)

さすが実学の国アメリカです。
徹底して、自分がいざ臨床をする際に役立つことを教えてくれる。
だから私は、授業でほとんど退屈した記憶がありません。
日本にもそういう大学院があればいいなあと、ホントに思います。

 

さて、チャイルドセラピーの授業で、デービッドが何度も口を酸っぱくして言っていたのは、
子どもの問題を家族と切り離して考えることは不可能だということでした。

 

子どもが問題行動を起こしていると、親や周りは、その子が持って生まれた気質のせいにしたがります。
だってそうすれば、自分の責任を回避できますからね。

でも私は、生まれつき問題がある子はいないと思っています。

仮にその子が出産直後から神経過敏で育てにくかったとしても、
それはひょっとしたら、その子を妊娠中にお母さんが精神的、身体的ストレスを抱えていたせいかもしれないし、
出産時に何らかのストレスがかかったせいかもしれません。あるいは、お母さんが同居のお姑さんに気を使いすぎているのかもしれないし、
産後うつにかかってしまったのかもしれません。

 

子どもが何らかの症状を示しているときに、それを
「この子はもともと育てにくかった」
「赤ちゃんの頃からかんしゃく持ちだった」と、その子の生まれ持った気質や脳のせいにして、その子が置かれている状況(コンテキスト)を顧みないことを、
デービッドは常に私たちに戒めていました。

 

そして、もうひとつ、良く言っていたのが、
「決して、何かを大したことじゃないと思わないように(You never think something isn’t a big deal)」でした。

 

そんな彼が話してくれた実際のケースを、今日もご紹介したいと思います。

 

あるとき、デービッドのオフィスへ、母親が10歳の息子を連れてきました。
お母さんは、彼を連れてきた理由をこう説明したそうです。

 

「この子、本当によくえんぴつをなくすんです」

 

・・・は?
そ、それが何か?

 

・・・と普段なら思いたいところですよね。

 

デービッドは言いました。
「君はこの話を聞いて、どんな感情を呼び起こされる?
自分自身の感情に注目するのは、本当に大切だよ。君が混乱したら、その混乱を大事にしなさい。
君は捜査官のように、問題の本質を探り当てなければならない」

 

学校の先生は、「彼からは何か妙な臭いがするんです」と言っていたそうです。

 

そこでデービッドは、いろいろと質問をし始めます。

 

鉛筆はどうしたの?
食べちゃったの?
それとも、誰かのおもちゃと交換したの?

 

・・・・少年の答えは、いま一つ要領を得ませんでしたが、
ひとつデービッドが感じたのは、「コントロール不能な感覚」だったそうです。

 

次にデービッドは、お母さんへの質問を始めました。
お母さんは離婚していたので、デービッドはお母さんに、「どうして離婚なさったのですか?」と尋ねました。
お母さんの答え「私の母が、そうしろと言ったからです」

 

・・・は?
これもかなり、混乱する答えです。

 

非常に混乱したデービッドは、家庭訪問してみることにしました。

 

・・・・。

 

彼らの家でまず目に飛び込んできたのは、キッチンに積み上げられた、6か月分のゴミの山だったそうです。

 

つまり、本当の問題は、母親の鬱による育児放棄(ネグレクト)だったのです。
問題解決の鍵は、えんぴつをなくす彼ではなく、お母さんをサポートすることでした。

(ちなみに彼の6歳の弟にも激しい全身のチック症状があったそうです。兄弟ともに、ちゃんとSOSを出してくれていたんですね)

 

別のケースでは、ある夫婦が「子どもが兄弟げんかをする」といって連れてきましたが、
話をいろいろ聞いているうちに、
「お父さんは自転車に乗るのを許してくれるけど、お母さんは許してくれない」という話になり、
それを話しているうちにお母さんが泣きだし、自分が5歳のとき、父親に自転車で近くの洞窟に連れていかれ、そこで性的虐待を受けたことを話し出したそうです。

 

何故そもそもの相談理由が「兄弟げんか」だったのかは不明ですが、
それもすべて、最終的には母親をセラピーにつなげるためだったということですよね。

 

・・・という風に、デービッドの授業を聞いていると、最後は「お母さんのセラピー」という話で終わることが多かったので、
私もいまだに、子どもが紹介されると「まずお母さん!」と反射的に思うのかもしれないなと、改めて気づきました(笑)。

でもデービッドは、週に35件もセラピーを行っている大ベテランのチャイルドセラピストだったので、
彼の話に繰り返し出てくるということは、やっぱりそれが一番解決の早道なのだろうと思います。

 

前回の話の繰り返しになりますが、
子どもは常に、お母さんが一番楽になれるように、いろいろな症状を出してくれているんですよね。
お母さん、彼らのサインをぜひ、自分を癒すきっかけにしてください!
お母さんが癒されれば、親子ともに本当の意味で幸せになれるんですからね。

 

今日もどうぞ良い一日を。