ハーヴェイ・ミルク


さて、先日ちらっと触れたように、先週末行ったやぎやさんで、素敵な本を見つけて借りてきました。

その本は、「ゲイの市長と呼ばれた男-ハーヴェイ・ミルクとその時代」です。
アメリカでゲイ初の政治家(サンフランシスコの市政執行委員)になり、そのわずか11ヶ月後に当時のサンフランシスコ市長とともに暗殺された伝説の人物のノンフィクションです。

素晴らしい本でした。サンフランシスコ在住中にこの本を読むべきでした。
今、サンフランシスコのカストロ・ストリートは、ゲイのメッカとして、世界中の観光客でにぎわっており、
私もそこの古い映画館や地元の有名なカフェで何度も楽しい時間を過ごしたものでしたが、
あの、マーケットストリートとカストロストリートの交差点に誇らしげに掲げられた大きなレインボーフラッグが勝ち取られるまでには、どれほどゲイの人々が弾圧されてきたのか、ハーヴェイたちが、どれほどの苦労の末にゲイの公民権を勝ち取ったのか、本書を読んでその歴史に胸が詰まる思いをしました。

米国で同性間の性行為は違法とされ、ゲイが逢瀬を楽しむだけで逮捕されていた時代、ゲイであるだけで公職から追放されていた時代は、ほんの30年前のことなのです。しかも、あのサンフランシスコで。
当時のサンフランシスコが、いかにゲイへの弾圧が激しい街だったかなど、今のサンフランシスコに住んでいる人間からはまったく想像しがたいことです。私のサンフランシスコ時代の思い出は、何人もの素晴らしいゲイの友人抜きには考えられませんから。

大学院時代の授業で、あるテキサス出身のゲイの女の子が言っていました。
「アメリカのゲイは、サンフランシスコに近づけば近づくほど安全だと思っているのよ」
そういう街を作った最大の功労者は、ハーヴェイ、きっとあなただったのですね。

当たり前なのですが、この本にはあちこちになつかしいストリート名が出てきて、ページをめくるたびにサンフランシスコの風景がよみがえってきました。
そして、私の知らない事実もたくさんありました。たとえば、都市計画で住民が強引に追い出される前は、フィルモア・ストリートは全米有数の黒人の街だったということ。それと同じ現象が、今は対岸のオークランドで起きて黒人住民が立ち退きを強いられているようです。歴史は繰り返すというか、悲しいことです。
そして、今市民の憩いの場になっている元米軍基地パーク・プレシディオを、多数の反対を押し切って公園にするように働きかけたのはハーヴェイ・ミルクだったとか、かつてはサンフランシスコの通りは犬の糞だらけで、それを条例で禁じたのもハーヴェイだったとか。
サンフランシスコがあんなにもリベラルで美しい街であるのも、あなたのおかげだったのですね。

そして、そんな彼がヘイト・クライムの犠牲になって銃弾に倒れたこと。彼がそのずっと以前から自分の暗殺を予感していて、胸を打つ遺言テープを残していたこと。恥ずかしながら、ぜんぜん知りませんでした。

著者のランディ・シルツは、彼自身もゲイの新聞記者で、「そしてエイズは蔓延した」という素晴らしいノンフィクションの著者でもあります。そして、彼自身もエイズに倒れ、亡き人になりました。

久しぶりに、本当に読みごたえのある本でした。皆さんも、ぜひぜひ読んでみてください。