エリシュカさん 最後の札響定期


昨夜、札響の名誉指揮者であるラドミル・エリシュカさんが振る最後の札響定期を聴きに、久しぶりにキタラホールへ行きました。

彼の演奏を初めて聴いたのは、2006年の年末の札響定期です。その時に聴いたシェエラザードは、今に至るまで間違いなく、私がこれまでに聴いたベストワンの演奏です(ちなみに2番目と3番目は、ロンドンで聴いた小澤征爾のウィーン・フィルのブルックナーと、サンフランシスコで聴いた旧レニングラード・フィルのテルミカーノフのチャイコフスキーです)。冒頭のコンマス伊藤亮太郎さんのソロの一音目から完全に音楽に引き込まれ、演奏が終わった後しばらくは衝撃で席を立てなかったほどでした。あれほど「身体にくる」音楽を聴いたのは生まれて初めてでした。

あれが、チェコの指揮者エリシュカさんの札響初演でした。初演時ですでに彼は75歳。旧共産圏には、西側に全く知られていないすごい逸材がいるものだなあと思いました。初日の演奏があまりにもすごかったので、それが口コミで広がり、二日目の定期の当日券売り場には数百人が行列を作ったといいます。

そんな伝説の演奏会を聴けたのは、本当に本当に幸運でした。あの晩終演後に楽屋に寄ったら、ヴァイオリンの楽団員の女性Iさんがものすごく興奮して幸せそうに演奏を振り返っていたのを覚えています。

あの衝撃のデビューがきっかけで、エリシュカさんは札響の名誉指揮者に就任し、それからは年に2回のペースで来日して数々の素敵な演奏を聴かせてくました。2012年の年末には第九も指揮したのですが、あの第九も忘れられない。これまでに聴いたどんな第九よりもスローテンポ、重厚、和音のブロックが精緻に積み上がっていくような何とも言えない厚みのある第九でした。あんな風に第九を振れる人は彼しかいないと思います。

そんなエリシュカさん、既に86歳になられ、ついにドクターストップがかかったそうで、今回が最後の来日となりました。最後の定演なので、ご本人の強い希望で、曲目が当初予定していたベートーベンの英雄からあの札響デビュー曲シェエラザードに変更されるとのことです。それはもう、行くしかないでしょう。

久しぶりに足を運んだキタラでは、懐かしい音楽仲間たちにたくさん会いました。その一人に教えてもらったところによると、札響の前に振った大フィルのドボルザーク(彼の十八番)があまりに素晴らしかったので、昨日の演奏には大阪からクラシックファンが大勢押し掛けてたとか。ツイッターで「札幌は遠くない」というハッシュタグさえできたそうです(笑)。どうりでロビーで関西弁がいっぱい聞こえたわけだo(^_^)o。

演奏会では、彼が舞台に登場した瞬間から割れるような拍手。私も最初の曲の出だしから大泣きでした。そしてメインのシェエラザード。聴きながら、なんだかこの11年間を振り返ってしまい、何とも言えない感慨がありました。11年前に本当に幸せそうに話していたヴァイオリンのIさんは既に鬼籍に入られ、他にも亡くなった団員さんもいるし、伊藤さんも、仲良くさせていただいた当時のコントラバスや第二ヴァイオリンの首席の方たちももういない。だからもちろん11年前のあの演奏の再現ではないけれど、自分の人生に音楽があるってなんてしあわせなことなんだろう、あの奇跡のような夜を実際に体験できたのはなんて素敵なことだったんだろう・・・と、たくさんの感謝や幸福感もあふれてきて、相変わらず身体に染み渡る(足のつま先までザーッと振動が伝わる)彼のシェエラザードを一瞬一瞬身体全体で受け止めていました。良い音楽を生で聴くのは、本当に心身の癒しになります。チェロの首席のIさんが、ソロパートを弾きながらしきりにハンカチで顔をぬぐっていたのも印象的でした。
演奏終了後は、10分以上にわたる拍手。日本人はスタンディングオベーションをほとんどしないものですが、この日は会場のあちこちでたくさんのお客さんが立って拍手していました。団員がほとんど引き上げた後にも自然に手拍子が起こり、お客さんたちは長い時間、演奏の余韻に浸っていました。(私は何だか泣けてしまって立ち上がれませんでした)

マエストロ、札響とこのまちを愛してくださり、本当に本当にありがとうございました。あなたの音楽に出逢えてすごく幸せでした!

ロビーでは彼の11年間を振り返る写真展も開催されていました。娘に自分の撮影した写真を見せる夫。(もちろんこの後は札響のシッターサービスに預けましたが(^^))