トランプが大統領に選ばれてよかったと思う(少なくとも)一つのこと


米国の大統領選挙が終わって1週間余りになりますね。

 

先週は、BBCの選挙特番をリアルタイムでネットで追いながら、
開票が進むにつれて愕然とし、
トランプに当確がついたときには茫然とし、
一瞬パニックになりかけました。

 

米国の私の友人たちも一様にショックを受けているのが、
SNSの書き込みから伝わってきました。
(中には寝込んでしまった人も・・・気持ち分かります 笑)

 

だって・・・あのトランプですよ。

 

私がアメリカにいたときは、
ちょうど彼のリアリティーショー「Apprentice」が放映されている時期でした。

 

私もちろん観たことなかったですが、
彼が研修生に向かって偉そうに
「You’re fired!(お前はクビだ!)」
と宣言してる番組のコマーシャルは観たことあります(爆)。

 

でも、最初のショックが通り過ぎ、
現地時間未明の彼の勝利演説を聞き、
日一日と過ぎていくにつれ、
トランプの当選は、実は非常にいいことだったのかもしれないと思い始め、
今では、そうはっきりと確信するまでに至りました。

 

 

そう確信した理由のひとつが、この動画の彼の存在を知ったことです。

 

 

彼は、エール大学の法科大学院を出た、
サンフランシスコ在住の成功した実業家ですが、
もともとは、
今回の選挙のキャスティングボートを握ったオハイオ州の、
白人労働者階級の出身です。

 

ヴァンスさんについては、
こちらの記事もぜひ読んでみてください。
トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

 

つまり彼は、
「ヒルビリー」「レッドネック」と呼ばれる、
熱烈なトランプ支持者たちのコミュニティの出身なのです。

 

私は、6年間の滞米生活を、
米国で最もリベラルな街のひとつである
サンフランシスコとその周辺で送りました。

 

サンフランシスコは、それはそれは素晴らしい街で、
ヒッピームーブメントの発祥の地で、
LGBTのメッカで、
多様な人種の人々が住み、
(アジア系が人口の3分の1を占め、ヒスパニック系も多い)
エコでオーガニックで、
リベラルで民主党支持者が多く、
本当に居心地の良い場所でした。
(今でも私が地球上で一番好きな街です。ああ、また住みたい・・・)

 

でも、「415デモクラシー」という言葉があるように
(415はサンフランシスコの市外局番です)、
サンフランシスコは、
米国全体から見ればかなり特殊な地域です。

 

今回の選挙で言えば、
東西の海岸沿いにうっすらとある(笑)
ブルーステート(民主党支持者の多い地域)の中でも
特に先鋭的な場所であり、
サンフランシスコを知っているだけでは、
全然アメリカを知ったことにはなりません。
(San Francisco is a country of its ownですからね)

 

(地図はこちらのページよりお借りしました)

 

そして、
アメリカ国土の大半を占めるのが、
この地図の内側の赤い部分、
つまり、トランプが勝利した州です。

 

今振り返ると、本当に本当に貴重な体験だったのですが、
(あの頃は毎日大変で死にそうになってましたが 笑)
私は当時、
普通にサンフランシスコに暮らしていた日本人であれば
全く接点のなかったであろう彼ら(白人労働者階級)の中でも
最も困窮している人たちと
日常的に接する機会がありました。

 

何故なら、
サンフランシスコから車で1時間ほどの郊外に点在する
3つのホームレス支援センターで
セラピストのインターンをしていたからです。

 

私が接したホームレスの多くは白人で、
彼らはヴァンスさんのような
背景を持った人たちだったんだなあということが、
アメリカを離れて10年以上経って、
トランプが当選して初めて分かりました。

 

 

彼らは間違いなく、米国で最も光が当たらない人たちです。

 

 

黒人やネイティブアメリカンは、
明白に歴史的に白人支配階級から虐げられてきたので、
皆それを分かっていますし、
アファーマティブアクションの対象であり、
大学の学費免除や公私さまざまな援助もあります。

 

外見的にも特徴があるので、
普通は一目で分かります。

 

しかし、白人の貧困層はそうではありません。

 

ヴァンスさんのように、
祖母が10代で母を産み、
母は薬物依存で次々とパートナーを取り替え、
貧困にあえぎ、
自分の将来に明るい希望が持てず、
世代を超えたトラウマを受け継いでおり、
どこへ行けばどのような援助を得られるのかも分からないでいることなどは、
ぱっと見では分かりません。

 

さらに、
彼らは「特権階級」である白人で、
ほとんどの場合ヘイトクライムの加害者側であり、
暴力やドラッグが蔓延するコミュニティを作り上げた
張本人と見なされているので、
なかなか人々の同情を集めにくいです。
何せ、上の記事にあるように、
「白いゴミ」とまで呼ばれているくらいですから。

 

そして、
就職先を見つけるのにも苦労する
彼らのコミュニティーは、
軍の格好のリクルート対象です。

 

もちろん黒人やネイティブアメリカン、ヒスパニック系の人々もそうですが、
戦争の最前線に送られるのは、
常に虐げられる側の人々です。

 

そして、戦争体験が、
すでにトラウマを抱える彼らのトラウマを何百倍にも増幅し、
戦争から戻れば、ただでさえリソースが少ない彼らが
薬物に溺れて路上に出て行くのはある意味当然のコースと言えます。
(米国の40−50代の白人男性は、
現在死亡率が上がっている唯一の集団だそうです)

 

 

トランプの勝利演説中、
聴衆が最も歓声を上げたのは、
彼が退役軍人をたたえたときでした。
それも、彼らの背景を考えるとよく分かります。

 

 

ヴァンスさんはたまたま、
自分の海兵隊での体験が
貧困からはいあがる最初のきっかけになった
幸運なケースですが、
(彼にはお祖母さんという元々のリソースがあったので、
軍隊からもリソースを得ることができたのでしょう)
実際には、
戦闘の最前線でトラウマを負う可能性が高い軍隊生活から
ポジティブなものを持ち帰れる人は
ごくわずかだと思います。

 

 

トランプが当選して、
これまでほとんど思い出すことがなかった、
当時毎日接していたホームレスの人たちのことを思い出しました。

 

 

彼らはヴァンスさんが書いている、
「困難に直面したときのヒルビリーの典型的な対応は、
怒る、大声で怒鳴る、他人のせいにする、困難から逃避する、というものだ」という、
まさにその通りの人たちでしたし、

(私が教えていたAnger Management[怒りのコントロールの仕方]のクラスの真っ最中に、
屈強なホームレスの男性2人が取っ組み合いのケンカを始めたときほど、
自分が無力に感じたことはありません(笑)。
もちろん即座に、
その場にいた同じくらい屈強な当事者スタッフに取り押さえられましたが・・・)

 

 

ほぼ全員が、
戦争あるいは子ども時代の虐待などによる
深刻なトラウマの後遺症で、
薬物依存プラス精神疾患を抱えていました。

 

でも、彼らは本当に純粋で優しい人たちでもありました。

 

 

これは以前にも書いたことがありますが、
何一つ所有していないホームレスの男性が、
教会でもらったジュースを
「チエコにあげようと思って取っておいたんだ」と言って
私にくれたことは今でも忘れられません。

 

 

あのジュースはいまだに、
私がこれまでにもらった中で
一番うれしかったプレゼントのひとつです。

 

 

トランプはそういう、
普通の人が見て見ぬふりをしている、
「ゴミあつかい」されてきた人たちに光を当てた、
初めての大統領候補だったのではないでしょうか。

 

それだけでも、トランプが当選した意味はあったと思います。

 

 

私は学校でも働いていますが、

いじめというのは、
いくらいじめられる側のケアに尽力したところで
絶対になくなりません。
いじめている側が、
なぜそのような行動に至るようになったかの背景を知り、
いじめている側の人たちを癒さなければ、
根本的な解決にはなりません。

 

 

トランプが当選した直後には、
さまざまな差別的落書きやヘイト行動が確かに増えたようです。
でも、彼の当選で、初めて彼らに光が当たり、
初めて彼らの言葉に人々が真剣に耳を傾け、
理解しようとし始めているのも事実です。

 

8年前、オバマが大統領に就任したときは、
誇張ではなく、
私には、道を歩く黒人の人たちがこれまでとは
まったく違って見えました。

 

それと同様に、
これまでゴミ扱いされてきた最底辺の白人層も、
トランプの大統領就任によって
きっとこれまでとは違って見えるようになると思います。

 

彼らは、自分たちがゴミ扱いされてきたから、
自分よりもさらに弱い立場の人を蔑むのです。
そんな彼らが誇りを取り戻せば、
社会全体が良い方に変わることでしょう。

 

・・・トランプが、
彼らに本当の意味で誇りを取り戻させるような
政治の手腕を発揮することを、
切に願っています。

 

彼を毛嫌いするだけでは、
世の中は分断されたままですものね。

 

私の感覚では、
当選したとたん、彼のエネルギーもずいぶんと変わった気がします。

・・・何だかこれからのアメリカの動向がすごく楽しみになっている私です(笑)。

 

今日もどうぞ良い一日を。